「眠りの町」と「通り雨」の旅

・「ぼくは〈眠りの町〉から旅に出た」沢村凜 ISBN:4041106508
・「通り雨は〈世界〉をまたいで旅をする」沢村凜 ISBN:4041106516

沢村凜さんの「通り雨」と「眠りの町」については、何を語ってもネタバレになってしまうので、感想を書くのが本当に難しい。読んでからずっと、どうやって書こうかと悩んでいたけれど、いっそ、沢村さんご本人にお伝えした感想をそのまま、ここに書いてしまおう。

ダンテの「神曲」は天国篇が退屈、という話を聞いたことがある。わたしは地獄篇から読み始めて煉獄篇の途中で飽きてしまって天国篇までたどりつかなかったので、そもそも、それが本当かどうか、検証さえしていないわけなのだけど。でも、その話を聞いて以来、いつかは、私が退屈でない天国を書きたいなーと思っていた。

だって、みんながそれぞれに幸せになりたいと思っているのに「人類には、天国(=幸せな世界)なんて退屈すぎて耐えられない」というのが事実だとしたら、こんなに哀しいことはない。「天国」という言葉に代々積み重ねられてきたイメージが退屈なのなら、ほんの一ミリでも、退屈でない天国のイメージを作り出せればいいな、と夢見ていたのだった。

それがもう二十年も昔の話。いまだに自分の想像力だけを武器に理想世界をつくりだそうと挑戦したことは一度もない。生きているうちに挑戦してみようという気になれるかどうかも分からない。年を重ねるほど、どんどん敷居が高くなる感がある。

だって、やっぱり地獄のほうに馴染みがあるから。現実にもフィクションにも地獄のイメージはあふれているから。こうなってほしくない未来なら、いくらでも思いつくけど「だったら、どうしてほしいのよ。言ってくれたら、つくってあげるから言いなさいよ」と神様に詰問された時、まともに答える自信がない。

「通り雨」と「眠りの町」は両方とも、魅力的な理想世界をつくりだすことに成功した小説だと、わたしは思います。読んでいる間じゅう、ずっと心を奪われていました。

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