粕谷栄市氏の「転落」と「鄙唄」

思いがけず、粕谷栄市氏から芸術選奨文部科学大臣賞受賞作二作をいただいてしまいました。(文化庁の紹介ページはこちら)

長篇小説で描ける異世界は一つ、多くても二つか三つがせいぜいですが、この二つの詩集には三十以上の異なる世界が広がっています。悪夢から覚めたらそこもまた悪夢だった、どこまでもどこまでも悪夢という果てしなさは詩集ならではのもの。感覚異常が起きるタイプのドラッグって、もしかしたら、こんなかんじなのかな。

粕谷氏の散文詩のなかで直接的に描かれているイメージは、孤独だったり、不条理に残酷だったりするのですが、影が色濃い分、その影の裏側にある強烈な光について想像をかきたてられるところが好きです。「転落」がどこにも存在しない場所で起きる悪夢だとすれば「鄙歌」はかつての日本で起きていた悪夢。とくに、のの字に萌えるぜんまいのなかに寝そべる恋人たちの詩は、悪夢のなかにも浄福感があって素敵でした。

・「転落」粕谷栄市 ISBN:4783719551
・「鄙唄」粕谷栄市 ISBN:4879956201

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