アンケート「私を育てたミステリー」

1『決定版 幻魔大戦』(全10巻) 平井和正
2『シャーロック・ホームズ』シリーズ コナン・ドイル
3『ゴサインタン−神の座』 篠田節子


黙示録小説の『幻魔大戦』をミステリーと呼ぶのは変かもしれない。だけど、私にとっては変じゃない。中学・高校時代、文字通り寝食を忘れて読みふけったのは、作中、これでもかとばらまかれる謎の答えを求めたからだと、今になって思い当たるからだ。
人はなぜ生きて死ぬのか。善とは何で悪とは何か。理想をかかげた組織が、なぜ腐敗していくのか。
当たり前のことだけど、この作品に謎解きシーンは出てこない。シャーロック・ホームズが与えてくれた快刀乱麻の悦楽は、『幻魔大戦』からは得られない。泥沼化した謎を残して、探偵役だったはずの主人公は行方不明となり、物語は中断されたままだ。
実のところ、こうした謎を謎のまま抱えていられるようになるのが成熟するってことなのかも、と思い始めているのだけど、それでも、少しずつでも解明したくて、私は小説を書いてる。


掲載:「1億人のためのミステリー!」2004年4月(ランダムハウス講談社

附記:この後、2005年には電子書籍で「幻魔大戦deep」(e文庫) が、2008年には「幻魔大戦deep トルテック」(同)が発表されました。まだ未読ですが、東丈も登場しているようです。
アンケートで書いたとおり、中高生時代には「幻魔大戦」ほか平井和正氏の作品に夢中でした。ファンクラブに入ったり、1988年に「SFアドベンチャー」誌上で募集された新作小説の試読者に当選したこともあります。「幻魔大戦」の二次創作をまとめた個人作品集に対して、平井氏から「啓発を受けて小説を書こうとするならば、他の人間には書けぬ独自性を発揮し新しい発見をなす義務があるのです」とコメントをいただけたことが長い投稿時代の支えとなりました。この手紙は「夜にかかる虹〈下〉」(リム出版)に「ある女性愛読者への出さなかった手紙」として収録されています。
(2008年6月28日)

Copyright (C) 2004-2020 Chise KASUYA. All Rights Reserved.